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夏至より8月が暑いのはなぜか? 最高温度の遅れをシミュレーションする

                                             結論を先に記述 Ver.1.1 '21/07/25
                                                      Ver.1.0 '20/10/06
                                            All rights reserved 中村 利和 JA3OOK
【結論】
   正午より午後が気温が高いのはなぜか? 夏至より8月が暑いのはなぜ? 夏至より暑さは遅れてくるのか?
  子供のころからの疑問でした。物事を単純化して考察するために一日の温度変化をシミュレーションできるプログラムを作ってみて、
  やっと理由がわかりました。
   第一の理由は、
   太陽から受けるエネルギーがピークを過ぎてからも徐々に弱まりながらも加熱し続けるから」です。
     これは、グラフ1はエネルギーが徐々に弱まる場合、グラフ2はエネルギーが突然消える場合の温度変化の違いを見比べれば
     一目瞭然です。
   第二の理由は、
   物質にはすぐに温まらず、すぐにさめない性質があるから」です。
     すぐに温まらず、すぐにさめない性質を表す言葉は「比熱」です。「質量(≒重量)」も影響します。
     1.日変化のシミュレーション でこれらの値を変えて計算すると遅れ時間が異なることを理解できます。
     2.日変化のシミュレーションの結果と考察 でアスファルトの他に幾つかの物質でシミュレーションしてあります。
   第三、第四の理由として、順番はともかく、
   「熱が伝わることを阻害する要因(熱抵抗)があるから」です。
   大気中の炭酸ガスなどからの放射も重なって加熱時間帯が正午より遅れるから、
   などもあると思います。

   夏至を過ぎた8月ごろが一番暑い理由も同じと思います。

   次のグラフは本シミュレーション結果のグラフで、上記の理由を導き出すうえで重要な特徴を持つグラフです。
  ピンクが太陽からのエネルギーの変化、青色線が温度変化を示しています。
   グラフ1は春分の日前後の日毎の朝から夕方までの太陽の動きを再現したもの。
    太陽のピークより温度のピークが遅れることが読み取れます。
    太陽が昇り始めても温度低下が30分前後続くことが読めます。
   グラフ2は春分の日前後の日に深夜零時に太陽が真南上に突然現れ動かず、正午に突然消える場合を表していて、
    太陽が消えると直ぐに温度が下降し始めること、太陽が現れると直ぐに温度上昇が始まることが分かります。
    (10分の遅れは計算間隔が10分のため)
    simu result 1
           グラフ1 シミュレーション結果 太陽の動きと温度の変化(上は春分の日前後の数日、下はその中の一日を10分毎に計算)

    simu result 2
           グラフ2 シミュレーション結果 太陽が突然現れて突然消えた場合(上は春分の日前後の数日、下はその中の一日を10分毎に計算)
   両グラフともに「アスファルト」の表面温度変化のシミュレーション計算結果のグラフです。
  計算に使った各種パラメーターの値は後で説明している既定値です。
   <各種パラメーターの値は自由に設定してシミュレーションできるので試みてください>

【プロローグ】
  検索Webで「夏至より8月が暑い理由」「夏至と暑い時期の遅れ」などで検索するといくつかの説明が見つかります。
  しかし、どの説明ももっともらしい説明ではあるけれど心の底から分かった! と言えるような説明に出会えず、
  モヤモヤした気分が残りスッキリしません! 皆さんはそれらの説明を読んでスッキリしましたか?
  そして、考えるうちに「加熱を一瞬で止めてもピークが遅れてくるのかな?」との疑問も出てきました。

  ⇒自分自身を納得させる説明が見つからないし、自分で説明することもできないので、自分で熱について
  勉強するしかありません。ということで頑張ってシミュレーション・プログラムを作りました。
   お断り:今回の目的は温度のピークが遅れるか遅れないかのシミュレーションです。
    ですので、
     ・問題を単純にするために、目標を一日の温度変化に定め、地上の物体の表面温度変化(気温でなく)を対象にしています。
      大気の温度変化は大まかには物体の表面温度変化に近いだろうとの前提です。
     ・素人でも組めた簡単な計算に留めています。
      なので、温度変化の傾向を確かめるツールとしては使えても、温度や遅れ時間の正確な計算はできていません。

   ブラウザーによっては動作しないかもしれません。Google Chrome、Microsoft Edge は動作しています。

  ⇒シミュレーションしてみて、気温が遅れる理由を私なりに考え、到達した結果が最初に書いた【結論】です。

1.日変化のシミュレーション
  次の条件を設定してプログラムを作ってあります。
 以下の説明で青色は値が変更可能な項目です。 各項目の値に赤色で値を入れてありますが、色々な値に変更してシミュレーションできます。
 テーブル1とともに見てください。
  測定時期
   ・昼夜の長さがほぼ等しい日(春分の日)前後を想定しています。
  温度測定対象
   ・水平の地盤の上に水平に設置した物体の上面温度の変化を計算します。同じ物体を周りにも敷きつめてあるものとします。
     本来知りたいことは気温の変化ですが、物体近くの気温は物体上面温度に近いだろうという前提です。
   ・対象の物体は固体とします。
     液体や気体での値を入力しても、それら特有の挙動(気化熱や対流など)を扱っていないので実際とかけ離れた温度になるでしょう。
   ・密度や比熱などのパラメータ値に身近な「アスファルトの値を暫定的」に入れてあります。
    (アスファルトやアスファルト舗装にはたくさんの種類があるようですが、ここでは難しく考えません)
   以下、パラメーターと暫定値の説明です。(赤色は別の値に適宜変更可能です)
   ・密度、比熱、熱伝導率 2.12g/cm3  920J/kg・K  0.74W/m・K 八光電機(株)の各種物質の性質(参考文献1)での値。
   ・放射率 0.93 スペクトリス(株)omega の放射率表(参考文献2)での値。
   ・厚み 0.2m。
   ・面積 1m2 大抵の場合、変更の必要がない。
   ・面の粗さ 1.3 表面の凸凹などによる表面積の増加に合わせる補整乗数。滑らかなら1。
          次項の上面熱伝達率から算出する放熱値や熱伝導率から算出する地盤伝導放熱値にこの乗数がかけられます。
          放射放熱値へは影響しません。(なぜなら放射率で反映済みとの考えから)
   ・上面熱伝達率 5.5 (株)キャットテックラボ 強制対流の熱伝達率の計算(参考文献3)、風速2m/sと仮定し、5.5。
   ・大気温度 9℃で一定と仮定。 気象庁データ(参考文献4)つくば(館野)の3月の平均気温。
   ・地盤温度 9℃で一定と仮定。
       国土技術政策総合研究所 地中熱利用の実証実験(参考文献5)の図3.7が興味深い。「地下1mの3月中旬の地温は
       その旬の平均気温とほぼ同じ」とのことでつくば(館野)の3月中旬の平均気温。
   ・物体の初期温度 9℃ 大気温度と仮定。

  最大加熱 800W 太陽から受けるエネルギーの加熱周期内の最大値(加熱周期が24時間なら12時ごろの値)。
    気象庁の「日射・赤外放射に関連するデータ」(参考文献4)を調べると、実測値の種類には3種類「直達日射量」「散乱日射量」
    「下向き赤外放射量」があります。
    今回は暑さの遅れのシミュレーションなので「直達日射量」だけを使用することとする。つくば(館野)の実測値は2020年3月20日春分の日の
    最大値が12~13時で 3.51MJ/m2 つまり 975Wであった。そこは北緯36度なので、
    水平に受けると 975W×Cos36 = 975W×0.8 = 780W。なので 800W とした。
      参考に、3月20日12~13時の各観測値は
           直達日射量:   3.51MJ = 975W
           散乱日射量:   0.34MJ =  94W
           下向き赤外放射量:0.96MJ = 267W
      余談 毎日の観測お疲れ様です。
         上記のようにこだわらなくても、 1000W×0.8 = 800W でも良かったのですが裏付けが取れました。
    春分の日の前後で太陽から受けるエネルギーは日々変化しますが一定とします。
  夜間加熱 0W 一日の変化を単純にしたいので暫定値は0。必要に応じて変更可能。
    なお、夜間に受けるエネルギーの平均は約300W。(上記のつくばの3月のデータ)
      感想 夜間、300Wも受けているのに冷えていく理由の一つは熱放射が363Wも(ステファンボルツマンの法則、気温10℃の場合)あるからですね!
  加熱様式 Sin 昼夜の長さがほぼ等しい頃の太陽高度(見かけの高さ)の動きを模するなら Sin。
       加熱を瞬時にゼロにしたいなら Rectangle。 
  加熱周期 24時間 太陽の動きを再現するなら24時間が妥当。 
  表示間隔 表示すなわち計算間隔を指定。ふつうは 10, 15, 20, 30, 60分 で事足りるはず。
  表示数  1152 計算始まりから何回分表示(計算)するかを指定。必ず 1152以下。(表示間隔×ここでの指定数がグラフ化される)
  計算結果数値表を画面出力 ここにチェックを付けてから計算実行すると、
               別画面に詳細な計算結果の数値が表示される。(コピーペーストすればファイルに保存できる)
  計算実行ボタン 計算を始め、上グラフに計算開始からのエネルギー(最大加熱量が100%で表示)と温度の変化(+-100℃)がグラフ化される。
  拡大表示の ~  上グラフの一部を拡大表示する機能をもっており、計算実行ボタン で自動的に拡大する範囲が計算され
           ここに入力される。自動計算された範囲が不満なら任意の値を入れればいい。
  拡大表示ボタン  上グラフの一部(拡大表示 ~ で指定されている範囲)が拡大されて下グラフに表示され、
           上グラフ内の拡大された範囲が灰色になり、下グラフに時刻メモリと右端に最高最低温度などが表示される。  
物体の種類(メモ) 暫定値
密度 g/cm3 2.12
比熱 J/kg K 920
熱伝導率 W/m K 0.74
放射率 0.93
厚み m 0.2
面積 m2 1
 面の粗さ 1~ 2
上面熱伝達率 W/m2 K 5.5
大気温度 9
地盤温度 9
 地盤熱伝導率 0.52
物体の初期温度 9
暫定値
最大加熱 W/m2 800
夜間加熱 W/m2 0 or 300程度 0
加熱様式 Sin
加熱周期 時間 推奨値24 24
 
 
 
表示間隔 分 推奨値10,15,30,60 10
表示数  1152以下 1152
計算結果数値表を画面出力 
拡大表示
maxWarm_model1
          テーブル1 入力パラメータとボタン グラフを表示するには、canvasタグをサポートしたブラウザが必要です。           グラフ3 シミュレーション結果 太陽の動きと温度の変化(上は春分の日前後の数日、下はその一部を拡大表示)   本プログラムでの温度の計算式は次のとおりです。(次の計算を表示間隔毎に繰り返しています)。    上方向へ 放射放熱=(物体上面温度4 - 大気温度4) * ステファン・ボルツマン定数 * 物体表面の放射率 * 面積   大気へ  伝達放熱=(物体上面温度 - 大気温度) * 熱伝達率 * 面積 * 粗さ   下方向へ 物体底面温度=物体上面温度と地盤温度の差を物体熱伝導率と地盤熱伝導率で比例         伝導放熱=(物体上面温度 - 物体底面温度) * 熱伝導率 * 面積 * 粗さ / 厚み   物体上面温度=((加熱容量 - 放射放熱 - 伝達放熱- 伝導放熱) / (物体の質量 * 物体の比熱)) + 物体上面温度     ただし、加熱容量は加熱様式に沿った形で時間変化。    注意 大気や地盤の温度も物体上面温度と相互に影響しあって時間とともに変化するはずですが、一定と仮定。       熱伝達率などのパラメータ値も温度によって変化するが考慮していない、       など色々と簡略化しております。    詳細はソースコードをご覧ください。(画面へカーソル → 右クリック → ページのソースを表示) 2.日変化のシミュレーションの結果と考察  シミュレーションを行った物体は次のとおりです。(熱容量が少ない順に記載)           密度、比熱、熱伝導率、放射率、(熱容量) 値の出典          面の粗さ           g/cm3 J/kg K W/m K   砂       1.47 750 0.35 0.76 (1.103) 竹折砿業所、東北大学、omega  2   コンクリート  2.1 880 1.1 0.94 (1.848) 八光電機、omega        1.3   アスファルト  2.12 920 0.74 0.93 (1.950) 八光電機、omega        1.3   花崗岩     2.7 840 3.8 0.45 (2.268) 八光電機、omega         2   鉄       7.87 461 67. 0.74 (3.628) 八光電機、omega         1.1   補足     この表での熱容量=密度×比熱/1000。     シミュレーションでは熱容量=密度×比熱/1000×厚み。     値の出典は、竹折砿業所(参考文献6 川砂矢作4号カサ比重、比熱グラフ)、           東北大学(参考文献7 Fig.3 SAND-A)、           八光電機(参考文献1 非金属固体の性質)           放射率はomega(参考文献2 放射率表)。           面の粗さは小生が設定。  シミュレーション結果を比較しました。   加熱様式が「Sin」の場合。     最高温度の正午からの遅れ        鉄260分 > 花崗岩230 > アスファルト220 = コンクリート220 > 砂160     感想 どの物体においても、正午より遅れることは確かです。        熱容量(質量×比熱)が大きいほど遅れる傾向が大です。        遅れる時間が実感より大きい感じがします(実際に測定したことはないですが)。       計算方式に不完全な点がたくさんあるのでしょう。        物体表面の温度が表面積や風速に大きく影響されることは確かでしょうが、       パラメータ「面の粗さ」の値は私が主観的に設定いて、これが計算結果に大きく影響していることが       分かりました。大気温度を一定にして計算している点も課題だと思います。    参考に、     最高温度   砂46.58 > コンクリート44.22 > アスファルト43.65 > 鉄40.87 > 花崗岩39.69     最低温度   鉄24.54℃ > アスファルト15.94 > 花崗岩15.53 > コンクリート15.38 > 砂10.04     一日の温度差 砂36.55 > アスファルト27.71 > コンクリート28.85 > 花崗岩24.16 > 鉄16.33     感想 砂は、日が高いときは熱くて日が傾くと急に冷たくなることが分かります。実感と合ってます。        鉄板は厚みが0.2mもあると温度差が少ないですが、現実的な厚み5mmにすると温度差が極端です。          厚み5mm 20分遅れ 最高75.76℃ 最低9 温度差66.76    加熱様式が「Rectangle」(長方形)の場合。     シミュレーション結果       どの物体も加熱停止直後から温度低下が始まっていて、全く遅れがありません。     感想 皆既日食になると「気温が下がる」との話は聞いたことがあるしWebにも書かれています。       山へ分け入ったあと、太陽が高い稜線に隠れると急に肌寒くなるという経験をしたように思います。       料理をしているとき、火を止めればお湯はそれ以上沸かないように感じます。       これらの現象もこのシミュレーションで裏付けられたと思います。     注意 物体の表面の温度を計算している本シミュレーションでは遅れがないとの結論を出していますが、       古川はづき氏が「格子による熱伝導(参考文献10)」で絶縁体で熱が遅れて伝わる原理を分かりやすく説明をされており、       導体での自由電子による熱伝導でも遅れを予想できます。熱の伝導には色々な物体において遅れがあることには留意して       おくべきです。これらの熱伝導の原理を取り入れたプログラムを作成すれば、鍋の湯や鉄の箸の温度に遅れがあることを       シミュレーションできるでしょう。       ただし、この遅れは規模の小さい場合に考慮することであって、地球規模では問題にならないでしょう。 【エピローグ】    遅れの最大の理由は「太陽からのエネルギーがピークを過ぎても徐々に低下していくから」、「徐々に上昇していくから」。瓢箪から駒です。 <謝辞>    本プログラムの作成には「(株)八光電機(はっこうでんき)のWeb Q&Aキット 熱の計算: 温度上昇計算」   を大いに参考にしました。深く感謝いたします。    熱についての知識については「安島弘美 自由研究 熱システム(参考文献9)」をはじめ多くの資料が役立ちました。    グラフ化のプログラミングについて「奥村 晴彦 JavaScript講座 グラフを描く(参考文献11)」など多くの資料の助けをかりました。   多くの方々に感謝いたします。 [参考文献]  1 (株)八光電機(はっこうでんき) Q&Aキット Q&Aキット 一覧 Menu 熱の計算:温度上昇計算、 各種物質の性質: 非金属固体の性質  2 スペクトリス(株)オメガエンジニアリング事業部 放射率表  3 (株)キャットテックラボ CAE科学技術計算に役立つ計算サイト 平板の熱伝達率の計算(強制対流熱伝達)  4 気象庁 過去の気象データ検索 つくば(館野)での2020年3月データ    気象庁 日射・赤外放射に関連するデータ つくば(館野)での2020年3月データ  5 国土技術政策総合研究所 地中熱利用の実証実験  6 (有)竹折砿業所 乾燥川砂カタログ 矢作川砂  7 東北大学 松本順一郎 大久保俊治 土木学会論文 土の伝熱特性に関する実験的研究  8 防衛大学校 中村元 環境・エネルギー産学連携フォーラム in 横須賀 2012 熱を効率良く移動させるためには?  9 安島弘美 自由研究 熱システム 10 お茶の水女子大学 古川はづき 講義ノート 物性物理学序論 第11回 熱伝導 格子による熱伝導 11 奥村 晴彦 JavaScript講座 グラフを描く 12 天文学辞典 季節の変化

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